先週、和歌山県新宮市にある新宮市立医療センターで来年3月以降の分娩予約を休止するというニュースがありました。
これらのニュースからは、新宮・東牟婁エリアの中核病院として年間300件ほどの分娩を取り扱っていたが、2名いた医師の1名が退職するため、2022年3月からの分娩予約を取り消したという内容で、市長が後任を求人しているというコメントが添えられていたりします。
また毎日新聞によれば、分娩が可能なのはクリニック1箇所で、近隣のくしもと町立病院や、三重県の病院にも打診しているということですが、センターから車で40分~1時間の距離にあるということも記載されていました。
そこで、そもそも和歌山県の分娩ができる体制はどうなっているのか、GISを使って可視化してみたいと思います。
まずはオープンになっている分娩対応の医療機関の情報を探してみます。すぐに検索で出てきたのは、日本産科婦人科学会が開設する周産期医療の広場の和歌山県の分娩取り扱い施設のページ。また、和歌山市周辺(和歌山市、海南市、紀美野町、有田市、湯浅町、広川町、有田川町)については、わかやまお産ネットワークという組織で対応している医療機関の一覧がありました。妊婦健診と分娩を分担する体制が取られているようです。また、県のHPでは、和歌山県産科医確保研修資金・研究資金貸与という仕組みがあり、手引の中に9つの医療機関が記載されていました。(ただし平成27年の実績…)これらから漏れている分娩取り扱い医療機関もあるかしれませんが、状況的に医療機関の数が多いとは思えないので、ほぼ大丈夫だろうと思います。
で、それらの齟齬がないか、確認すると、公立那賀病院は「令和2年9月末を以って、分娩を休止」となっており、2014年から南和歌山医療センターも「健診のみ」としている模様です。読売新聞によれば、
県医務課によると、県内で分娩可能な病院は、2012年4月時点で12か所あったが、14年に南和歌山医療センター(田辺市)、15年に国保野上厚生総合病院(紀美野町)、20年に有田市立病院と公立那賀病院(紀の川市)がそれぞれ休止し、現在は8病院。新宮市立医療センターが休止すると、7病院に減ることになる。
と書いてありました。医療機関の集約化の動きもあったので、休止自体が「悪」ということではありませんが、医療機関へのアクセスの観点から検討してみましょう。
とりあえず、人がどこに住んでいるのかも重要なので、国土数値情報のページから和歌山県の将来人口推計値のデータをダウンロード1kmメッシュで検討することにする。年齢階級ごとのデータがあるので、分娩との関連を踏まえて15歳から39歳までの人数の合計をArcGIS Proで計算させる。
各メッシュから2022年3月以降、暫定的に直線距離で10km圏内に分娩対応している医療機関があるかどうかと、2014年から来年の3月で5つの施設が減っている状況を検討することにした。
病院と診療所があるので、病院を診療所の倍の能力があると仮定してみたところ、ピンク系が施設に分娩可能な施設が周辺にないところで、色が濃いところは15-39歳人口も300人以上、薄いところは10人以下に設定しています。和歌山市と橋本市の間や今回の串本町と新宮市立医療センターの間のあたりは、人口もそれなりにいるのに、施設がないことが分かります。点線は新宮市立医療センターの周辺10Kmの円ですので、休止の影響の大きさがわかります。そもそもなのですが、ピンクの地域は周辺に分娩に対応できる医療機関がないわけですが、内陸の方は過疎の傾向があるとはいえ、結構多いなと感じます。
三重県との県境でもあり、三重県側の妊婦さんを受け入れていたのかはよくわかりませんが、三重の方にも影響が大きいのではと予測します。尾鷲市までは結構な距離が…。
次は、これまでの減少の状況についてですが、当然、分娩対応を休止した病院の周辺では緑やピンクで表示され、利用できる医療機関が減少しています。和歌山市の周辺は施設の集約化が図られ減ってますが、数には恵まれているといえますし、田辺市周辺も他の医療機関がありましたが、新宮市は市内や周辺に機能を代替できる病院がなく、クリニックが一つだけということを考えると、深刻な状況であることが理解できました。
今回は医療へのアクセスを距離という観点から可視化を試みましたが、移動は簡単でも、施設の対応力を超えていたら、医療が受けられないのは同じですので、一見今回のテーマと逆のような施設の集約化も含めて総合的に考えてゆく必要があります。
今回は直線距離で検討しましたが、時間距離という概念もあり、一定の時間で移動できる距離を考えた場合には、高速道路等を整備するということがあげられます。ただし新宮市周辺は整備が遅れているようなので、すぐには難しいかもしれません。また山がちな内陸の方は時間距離で考えると実感としてはもっと遠いということになるのかもしれません。
そうなると、母子の安全という面からは助産師さんに巡回して、異常の早期発見に努めたり、予定日が近づいたら妊婦さんが入れるような居住施設を整備したりというような方策も考えられるかもしれません。(もう行っているのかもしれませんが、そこまでは調べられていません。少なくとも県のHPにはあまり情報がなかったです。)
根本的なこととして国をあげて産科医を支援して、安心して家族が子どもを産み育てられる体制を作ってほしいと願っています。