移植については以前よりは少し距離を置いているとはいえ、いつも学生には、日本の肝臓外科は世界でもトップレベルだと話してきましたし、今もほとんどの施設はそうであろうと思いますが、先日の群大での腹腔鏡の件に続いての今回ですので、話題にしづらくなってきました…。
今回がどのような原因によるものであるのかわかりませんが、これまでも日本肝移植研究会ではイレギュラーな事象が発生した時にはすぐに調査委員会を作って検証してきましたし、施設側もその調査に協力してきた歴史があります。移植医療というものが日本では必要以上に疑問視されていた経緯を踏まえて、市民への説明責任を他の学会、専門分野以上に意識している医療職の集団だと思っていますので、原因の究明を適切に行っていただけるものと期待しています。
私はその肝移植研究会の生体肝移植の肝臓提供者(ドナー)を対象とする第2回の全国調査を実施する委員をしています。
その1回目の調査でも色々なことがわかりました。
肝移植は重症肝不全患者を対象に行われる治療です。術前の状態が悪ければ本人・家族のみならず医療職も救命したいと強く願うわけですが、術後の成績は悪くなる傾向になります。また早い時期に手術すれば成功率は上がりますが、肝移植では術後間もない時期の死亡率が比較的高いため、まだ元気だったのに亡くなってしまうという方も確実に存在します。
前回の調査では、ドナーの手術への満足度は自分自身の回復と患者の回復、そしてそれらの相互作用が影響していることがわかりました。
つまり、ある程度患者の回復が見込めない生体肝移植は、単にドナーに身体的な術創や内部の損傷による侵襲を与えるだけではなく、術後の精神状態を悪化させるリスクがあると考えられます。
肝臓外科医たちの英知と普段の努力によりこの四半世紀で手術成績が著しく改善した現在においても、ドナーの問題を絡めると手術適応の判断の難しさは不可避かつ本質的な課題であると思います。