昨日は、移動の時間が多かったので、一度流し読みはしていた孫大輔先生の「対話する医療 ―人間全体を診て癒すために」を読み直しました。
全体の流れ
本書の構成は第1章で家庭医や総合診療医の人間観と対話の必要性をエピソードを交えながら紹介し、第2章では、医療コミュニケーションにおける様々な話題を医療社会学や哲学的な観点を交え紹介しつつ、オープンダイアローグのように対話がもたらす治療的な側面が示されており、本書の概念的なコアの部分だと感じました。
第3章では、少し「対話」から離れて視野を広げ、健康の社会的決定要因の説明やパウロ・フレイレの教育活動を通じて、人と社会とのつながりが健康等に与える影響を示しながら、身近な谷根千での活動などが紹介されます。そして最後の第4章では、これまでの内容を受けて、これからの医学教育が目指すものを示された上で演劇の活用など新たな取組を示し、対話型の医学教育の必要性を唱えて閉じます。
内容をあまり書いてしまうとネタバレになってしまいますが、保健医療社会学を大学院で学んでいた私にとっては、「患者中心の医療」「エンパワメント」「健康生成論」など馴染み深い概念が多く、丁寧に読んだつもりですが一気に読み終えてしまいました。それらに詳しくない方でも例示が豊富なので、内容の理解は容易にできるかと思います。
実は看護実践の振り返りにも適した書
この本はどのような性格の本なのだろうかと考えると、医学教育の教科書ではないし、専門的な内容がふんだんに織り込まれたエッセイという感じでもあります。基本的には「医学教育」に向っていく書籍でもあり、関心を持って手に取るのは医学生や初期研修医で、まえがきに書かれているほどは一般の方が読む書籍とは言えないのかとも思います。
ただし著者の学識の広さ(看護学でも学位を取得)によるものと思いますが、医師・医学生以外にも十分に親和性を有した内容と筆致です。患者に「寄り添い」「共感」することを得意にしている看護職も多いと思いますが、読んでみると「あっ、ここは知らなかった…」とか「そうだったんだ~!」みたいな振り返りが得られる内容が満載だと思います。